時々、駅前や道端で辻占い師(つじうらないし)さんを見かけませんか?
現在の辻占いのもとになったのは、日本に古くから伝わる「辻占(つじうら)」。
辻占は、日本最古の歌集『万葉集』に「夕占(ゆうけ)」という名前で登場しています。恋の歌として!
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今も昔も、みんなが占いで知りたがったのは恋の行方。『万葉集』の夕占の歌を読み解きながら、昔の人の恋愛事情に思いを馳せてみましょう。
辻に立って通行人の言葉に耳を傾ける「辻占」
辻占いというと、辻占い師さんに手相を見てもらったり、タロットで占ってもらったりというイメージがありませんか?
実は、昔の辻占は、現代の辻占いとは違います。
「辻」は交差点のこと。夕方、辻に立って通行人の言葉に耳を傾け、その言葉をもとに吉凶を占うのが辻占です。
日が暮れかかる夕方は、人々の顔もよく見えない時刻です。しかも、辻は、人だけでなく、人以外の存在(神や妖怪など)も通る場所と考えられていました。
辻を通り過ぎた人影が「明日はきっと良いことがあるぞ」なんて話していると、それを“神のお告げ”ととらえたってわけですね。
日本には昔から、「言葉に例が宿る」という言霊(ことだま)信仰がありました。その影響もあって、辻占では、何気ない言葉にスピリチュアルなものを感じていたんですよ。
『万葉集』の夕占の歌を読み解いてみよう
『万葉集』に載っている夕占の歌をいくつか紹介します。
まずは、女性の歌から。
夕占(ゆふけ)にも 今夜(こよひ)と告(の)らろ 吾(わ)が背なは 何(あぜ)ぞも今夜(こよひ) 寄(よ)しろ来(き)まさぬ【3469】
訳すと、「夕占をしたら、「今夜(あなたがやってくる)」って聞こえたわよ。それなのに、どうしてあなたは私の家に寄り付かないのかしら?」という感じです。
『万葉集』が成立したとされる奈良時代は、男性が女性の家に通って夜を過ごす「通い婚」の時代。
しかも、男性は、あっちこっちに女を作っていて、「昨夜はあっちだったから、今夜はこっち」みたいに、女性の家を渡り歩いていました。
女性は、恋する男性をただ待つだけ――。それなのに、待っていても男性は全然訪ねてくれません。
――どうして?私に会いに来て!
そんな切ない気持ちに耐えきれなくなった女性が、愛する男性との恋の行方を夕占で占っていたんですね。
一方、男性の方はどうでしょうか?
言霊(ことだま)の 八十(やそ)の街(ちまた)に 夕占(ゆふけ)問(と)ふ 占(う)まさに告(の)る 妹(いも)は相寄(あひよ)らむ【2506】
「夕占では、本当に言っていたんだよ。愛しいあなたが僕に寄り添ってくれるって」という訳です。「妹(いも)」は、血のつながった姉妹ではなく、恋人や妻などを意味します。
「占いによるとね、君と僕とは相思相愛になるんだって!」という強引なこじつけのような気もしますが、そう言われると、当時の女性は「そうなのかしら?」と思っちゃったのかもしれませんね。
男性の歌をもう一つ。
月夜(つくよ)には門(かど)に出(い)で立(た)ち夕占(ゆふけ)問(と)ひ足卜(あうら)をそせし行かまくを欲(ほ)り【738】
「月夜に夕占や足卜(占いの一種らしい)をしたんですよ。あなたに会いに行きたかったので」という訳で、これだけ読んでも意味不明じゃないですか?
実はこの歌、「あなたが訪れてくれないので寂しいです」という女性からの歌に対する返歌(返事の歌)なんですよ。すなわち、「夕占で凶と出たから、あなたに会いに行けなかったんだ。でも、あなたを愛してるよ」って意味!
見苦しい言い訳!
こんな歌を返してくる男性を許せますか?許せませんよね?
と考えるのは現代的な女性の感覚で、奈良時代の女性は「占いの結果が悪かったなら仕方ないわ」と自分を納得させたのでしょう。当時は、スピリチュアルがとっても重要な時代でしたから。
『万葉集』で夕占の歌を見てみると、女性は男性を思う気持ちを占いに託していて、男性はこじつけや言い訳に占いを利用しているような気がします。男女差がはっきり表れていますね(笑)
いつの時代でも恋愛の道しるべとなってきた占い
『万葉集』の夕占の歌を読み解くと、今も昔も恋愛事情は変わらないってことがわかるんじゃないでしょうか?
男性のこじつけや言い訳も、昔からずーっと同じですね(笑)
そして、辻占に限らず、占いは、いつの時代でも恋愛の道しるべになっています。