最近は納骨堂が注目されていますね。
納骨堂は遺骨を収蔵するための施設です。お墓と違って遺骨を土に埋めず、ロッカーや棚などに骨壺や位牌を安置します。
都市部では、交通の便の良い場所に納骨堂が増えてきました。多くの納骨堂は、内部がまるで高級ホテルやタワーマンションのようです。こうした利便性や高級感・清潔感が納骨堂の魅力なんですよ!
それから、納骨堂を利用するための費用は20万~150万円が相場。費用の相場が100万~300万円のお墓に対して、納骨堂は経済的にも嬉しい!
でも、納骨堂の費用については注意が必要です。このことがよくわかるのが、2020年12月に独立行政法人国民生活センターが公表した紛争の事案です。
「管理費不要で永代供養」は本当?
事案の要約を見てみましょう。(全文はこちらから確認できます)
Xさんは、宗教法人Zが運営する納骨堂の使用契約を結んだ。このとき、担当者からは「納骨壇の購入代金以外に、管理費などもかからずに永代供養(え いたいくよう)してもらえる」という説明を受けたとともに、「(Xが希望する納骨壇が)すぐに売れてしまうかもしれない」と急かされていた。その後、代金 約310万円を振り込み、後日、郵送された納骨檀使用許可証と管理規約を受け取った。
何年か後、Xさんは墓じまいして遺骨などを納骨堂に納めようとしたところ、運営会社Yから1人の遺骨につき約5万円を請求された。契約時と話が違う ことに納得できなかったため、Yにメールを送り、詳細な説明を求める一方で、納骨壇は未使用なので返金などの対応をしてほしいと伝えた。これに対して、Y からは次の内容の回答があった。
- 法事に際し費用がかかることは当たり前なので、管理規約に記載していない。
- 納骨料はお布施だと認識している。
- 管理規約に基づき返金には応じられない。
YをXさんをクレーマー扱いして、「宗教関係について無知」と非難しました。とんでもない対応をするYですが、実は次のような問題のある会社でした。
- 代表取締役の逮捕。
- 反社会的勢力とのかかわり。
- Zが許可していない費用の請求。
こんなことがあったから、ZはYとの委託契約を解除し、Yとは納骨堂の管理をめぐって法的に争っていたんですね。
Zは法事の際の費用発生を認めましたが、それ以外の追加費用(納骨料など)はYが勝手に決めたものなので認めないと主張しました。もっとも、迷惑をかけたXさんに対しては、法事の際の費用も請求しないことで和解したいと提案しました。
結局、解決の見通しが立たず、和解は不成立でした。
永代供養をめぐってトラブルが生じる?
今回紹介した事案は、XもZもYの被害者のような気がします。
Xがトラブルに巻き込まれたのは、必ずしもYだけが原因とはいえないんですよ。
まず、永代供養の仕組みをよく知らないと、トラブルに巻き込まれてしまいます。
永代供養とは、寺院が死者を「永代」にわたって供養することを意味します。でも、この「永代」は必ずしも「永遠」「無期限」を意味するわけではないので要注意!
「永代」といっても、納骨堂によっては、期間が定められていたり、子孫が檀家を離れた場合には永代供養されなくなるというルールがあったりします。
言葉通りに永代供養してもらえる場合でも、遺骨を個別に収蔵し続けるのか、一定期間を過ぎたら合祀になるのかは、納骨堂によって違うんですね。
「納骨壇の購入契約を締結すれば、契約時と同じ状態でずっと遺骨を永代供養してもらえる」と考えるのは危険!
契約締結前に、納骨堂の運営者が想定する「永代供養」の内容を確認しましょう。
管理規約に不記載のお布施は必要?
Zも認めている通り、法事には費用がかかるという点を忘れてはいけません。
法事の中でも、個人の命日に供養を行うのが「法要」です。「一周忌」「三回忌」「七回忌」などが法要に当たります。
「一周忌」「三回忌」「七回忌」など、個人の追善供養を行う法要は「年忌法要」といいます。これに対して、墓石・仏壇・位牌などを新規購入したり、修復後に戻したりする際に行われる入魂式は「開眼法要(かいげんほうよう)」です。
どちらの法要でも、お坊さんが読経をして故人の冥福を祈ります。このとき、お坊さんにお布施を渡さなければなりません。3万~5万円が相場とされます。
お布施は法要への報酬や対価ではなく、お坊さんに対する「感謝の気持ち」を表したものなんですよ。だから、納骨堂の管理規約に書かれていません。管理規約に書かれていなくとも、法要が行われれば必要となる費用と考えてくださいね。
そもそも納骨壇の購入代金や管理費とお布施が別扱いなのはなぜでしょうか?
宗教法人は、宗教法人法を根拠として、宗教行為に関連する収入には税金がかかりません。一方で、宗教行為とは関係ない収益事業からの収入には税金がかかります。
たとえば、寺院が墓地を販売したり、墓地の管理費を徴収したりする場合、そこから生じた収入は宗教行為に関連するものとして非課税です。
一方、寺院が買収した土地に墓地を造成しその墓地を販売した場合、この行為は不動産販売業(収益事業)となり、そこから生じた収入には課税されるんですよ。
納骨堂は最近になって登場した新たな施設です。土地の買収や造成を経ていることがほとんど。だから、納骨堂の運営管理から得られる収入(管理規約に書かれている納骨壇の購入代金や管理費など)は収益事業からの収入扱いで課税対象です。
法要の際のお布施は宗教行為に関連する収入で非課税なので、課税される管理費などに含めるわけにはいかないという事情があると考えられますね。お布施について管理規約に記載されていないのも、こうした事情からでしょう。
もっとも、ここまでの話は宗教法人側の都合に過ぎません。納骨堂利用者にとっては、定期的に徴収される管理費も、お坊さんに渡すお布施も、同じ費用です。お布施だからといって、所得税算定の基礎となる収入から控除されるわけではないんですよ。
仏教の「当たり前」を理解しよう
法要の際にお布施が必要であることは、長年仏教を信仰してきた人にとっては「当たり前」「常識」だと思います。法的根拠があるかないかという話ではありません。
そういう意味で、YがXに対して「法事に際し費用がかかることは当たり前」と回答したのは間違いではないということ。だからといって、「宗教関係について無知」と非難するのは問題です。
「宗教関係について無知」な客に対して、仏教の「当たり前」「常識」まで説明することが、宗教法人と客を仲介する管理会社には求められるのではないでしょうか?
この説明を怠ったYには、悪意もしくは重過失があったというべきです。
この点を考慮したZは、Xさんに対して、法事の際の費用も請求しないという提案をしたのだと考えられます。Z側の最大限の譲歩だったんでしょうね。
今回の事案からは、寺院が経営主体の納骨堂を利用する人は仏教の「当たり前」「常識」を理解しておくことが必要だという教訓を学べます。無知だと、悪質な業者や宗教法人に騙されることも……。
納骨堂に遺骨を収蔵するのは、コインロッカーやトランクルームに荷物を預けるのとは違います。管理規約に書かれていない費用の有無についても、契約前にしっかり確認することが大切です!